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九月一日の放課後ほどしみったれたものはない。それは他の生徒も同じのようで、気だるさ全開の空気がまだまだ暑い九月の教室内をすり抜けてカーテンを揺らした。
「あ、そういえば昨日の金券、残っちゃったな」
「そうだね。祭り限定なんだっけ、あの金券」
「もったいないことをしましたね……」
「金剛寺、あんたは真顔でそれを言う資格は無い」
「あれさ、マジでそういうことだったんじゃねえのかな」
「そういうことって?」
「いやだから、流浪人の魂が緑の光になって……みたいな」
「ぼ、僕もそう思いました。まだ成仏なさってないのでしょうか……」
「ばっかじゃないのあんた達。あれはあの方角にあった建物かなんかの蛍光灯かなんかよ、きっと」
「なんか、が多いんだよ」
「だってそれぐらいしかないじゃん、解釈としては」
「ちげー馬鹿。悲しき流浪人が俺達を呼び寄せてだな、そんでなんか相手してほしかったんだって。あ、絶対そうだわ。そんな気がしてきた」
終わりのHRが始まる時間だ。教室に入って来た担任は、やはり気だるそうな顔をしている。
わたしは(金剛寺は言わずもがなだが)、山崎もそういう方面では怖がりなことを知っていた。だから、ひとつだけ黙っていたことがある。
ほんとうは、わたしには聞こえていたのだ。
井戸の底からかすかに呻くような男の声が。わたしの勘違いだったかもしれないし、そういうことだったのかもしれないが、どちらにしろわたしは目の前にいる愛すべき馬鹿達がひとまず友達でいてくれているのだから、別にどちらだっていいじゃないかと、なんだか優しさのような、切なさのような、そんな感情を抱きながら「わたしってけっこうドライなのかもしんない」と思った。
くそだるい新学期の教室で。
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