October 残酷なわたしのテーゼ

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 立川駅へ向かう道中は、土曜日の午後だというのに割と混雑していなかった。 「山崎、ちゃんと手袋持ってきた?」 「おうともさ。ほれ」  意外にも指定通りの白い手袋を差し出した山崎は、右手だけにそれをはめて額に指だけくっつけるようなポーズをとったが、わたしは無視した。 「金剛寺のそれは軍手だね。白いね」 「あの、いけなかったでしょうか」 「白い手袋って指定だもんね。ううん、わたしは怒ってない」 「白いな、こんちゃん」  真顔で無言のまま立川駅に向かう三人は、なんとなく意思疎通が綺麗に図れたような気持ちになって、ひたすら歩くのだった。
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