序章

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隆は港で待っていた。 冷たい海風が髪を撫で 暖かい太陽の日差しが降り注ぐ。 港は活気に満ちている。 あちらこちらに船がつき 水揚げをする人達が 大声を上げながら 作業をしている。 隆は眼下に広がる綺麗な海をゆっくりと滑るように 近づいてくる船に向かって大きく手を振った。 船首に大柄な男が一人立ち 煙草を吸っている。 コートを脱ぎ Tシャツ一枚のその男の 腕は盛り上がり そこらの海の男よりも分厚い 胸板は遠くから眺めていても見惚れるほどだ。 「兄貴!お帰りなさい!!」 隆の横でぴょんぴょんと飛び跳ね声をかけている コイツは佐々木と言って 煙草を吸うこの男の後を 追いかけるようにこちらにやってきた。 「真司。高嶺兄貴に怒られるぞ。」 冷静にそう声をかけるコイツは神田といい 佐々木と一緒にこっちに来た奴だ。 来生高嶺 本島で莫大な勢力を持つ柏木組幹部 俺の兄 槙が本島にいた頃 世話になっていた兄貴分で 佐々木と神田は高嶺さんの弟分らしく 呼んでもいないのにやってきたと 高嶺さんは困ったように話していた。 案の定 船の上で高嶺さんは苦笑いを浮かべ 船が岸壁につくと タンと降り立ち つかつかとこちらに近づいてきて ゴツンっと佐々木の頭に拳骨を食らわす。 「イテっ!!!」 佐々木は涙目で頭を両手で抑え 神田は呆れたようにため息をつき 高嶺さんは煙草を携帯灰皿に捨てると 「佐々木。お前。強制送還だ。」 そう一言いい残し船へと戻っていく。 兄貴!すいません!勘弁してください! 佐々木は必死に追いすがり後を追い 神田は首を振りながらその後についていった。
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