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「すっかり皮がめくれて 完全に真っ黒になったな。」 佐々木は力こぶを作りながら 日に焼けた肌を満足気に眺めていた。 「そうだね。どっから見ても 漁師だよ。 船 乗れないけど。」 神田は興味なさそうに相槌をうつ。 船酔いが酷く 初日にダウンしてから一度も真司は 船に乗っていない。 「お前だってそうじゃねぇか。」 不服そうに言われ まあね。とまた適当に相槌をうつ。 港からほど近い2DKのアパートの一室で二人 ゴロゴロしていた。 真司は横たわってテレビを見ていて 俺はソファーに座り 本を読んでいた。 朝から槙兄貴の仕事を手伝い 午後からは こちらで立ち上げた事務所で高嶺兄貴の 仕事を手伝っている。 向こうにいた時より時間に追われる事もなく 夜は飯を食ったら基本的には暇だった。 朝も早い為 寝る時間も早く 健康的な生活を送って いるせいか 真司は体重が2キロ増えたらしい。 まだ8時にもなっていないのに 目の前で真司は大きな欠伸をしながら そういえばさ。と話しかけてきた。 「神田。何でこっち来たんだよ。 高嶺兄貴が居なくて 元兄貴忙しくなるのに 残ってなくて大丈夫だったのか。」 不意を突かれ グッと口籠る。 「・・なんだよ。急に。」 真司は頭の後ろに手を当て 天井を眺めながら 「いやさ。俺は話聞いて 絶対兄貴の所に行く!って 決めたけど お前は元兄貴についてるもんだと ばっか思ってたからさ。なんだかんだバタバタしてて 聞きそびれたけど 今ふと思い出した。」 どう返事をしようかと逡巡する。 気まずい沈黙が続き 余計焦ってくると そんな俺の様子を真司は横目で見て 「まあ。いいけどさ。俺は一人じゃなくて 良かったし。やっぱ知らない土地って不安だしさ。」 取り成すように言われた。 返す言葉が出ない俺に 真司は気を遣ったのか 「風呂入ってくるわ。」 そう言って バスルームへと消えていく。 俺は その後ろ姿をただ黙って見送った。
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