知る

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「遙くん。。。今の言い方は。。」 そう言いかけると ああ。うん。と遙くんは眉を潜め 「涼さんはガキの頃から知ってるから。」 そう言って鞄から本を出す。 まだ中学生だから 今でも。。 「今だってガキの癖にって思った?」 言い当てられて え。と口籠る。 遙くんは くすっと笑いながら 「楓ちゃんって言葉の反応鈍いけど 表情にすぐ出るからわかりやすいよね。」 栞が挟んでいる間のページを開き 「俺。早く大人になりたい。 早くこんな島から出て 一人で生きていきたいんだ。」 そう言って窓の外に視線をずらした。 こんな素敵な所なのに。。 その横顔は決意に満ち溢れ それでいて どこか寂しげだった。 遙くんは ふっと我に返り また本へと目を向ける。 「楓ちゃん。コーヒー。ホットで。」 「遙くん。コーヒー飲めたっけ。」 俺の問いかけに ニコッと笑みを浮かべると 「コーヒー飲めるようにならないと。 カッコいいよね。あの人。 楓ちゃんの親戚の人。大人って感じ。 この島にはあんな人いないよ。やっぱり本島だね。 俺もあんな風になりたいな。」 そう言う表情は キラキラと輝き 年相応に見え ちょっと安心する。 そっか。高嶺さんみたいになりたいんだ。 確かにカッコいい。 あんなカッコいい人がなんでなんだろ。。 俺みたいなチビでバカで何の取り柄もない奴と。。 「楓ちゃん?」 ハッと我にかえる。いけないいけない。 本当に簡単にすぐ高嶺さんへと意識が移行する。 頭をこつんと拳で叩き 気合いを入れ直して コーヒーを淹れ テーブルに置く。 一口飲み 顔をしかめた遙くんは 俺が背中を向けると 角砂糖を何個も入れ ミルクも全部入れてかき回し また一口飲んでから 少し得意げに 「美味い。」と言った。 本に没頭していく遙くんを眺めながら 彼の置かれている状況を想像する。 もしかしたら 彼がこうなってしまっているのは 彼のお父さんの考え方や態度が 家庭環境が 原因なのかもしれない。 それは。。 高嶺さんに話してみよう。 楓はそう考えながら 新しく入ってきた客に 「いらっしゃいませ。」 元気よく声をかけた。
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