知る

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「市長の息子ですか。」 ソファーでモルトを飲む俺の横で 楓は紅茶を飲みながら コクンと頷いた。 「あまり詮索も出来ないんですけど。。 家には帰りたくないみたいで。 いつもうちで本読んでます。」 ああ。 早めに仕事が終わり 楓を迎えに行った時見かけた子か。 「ニーチェを読んでいましたね。」 あの年齢にしては 落ち着いた雰囲気で印象に残っている。 「ニーチェ。。」 楓はポツリと呟き 眉間にしわを寄せる。 その様子に苦笑すると 慌てたように 「名前・・名前は知ってます。」 必死に手を振りそう言った。 「なら有名な著書は?」 揶揄うように俺がそう切り返すと うーーん。。と考え込み すぐに諦めたのか 「わかりません。」と潔く答える。 まぁ。確かに。 哲学には興味はないだろう。 説明しようかと思ったが 難しい話をされるとでも思ったのか 完全にしかめっ面になる楓を見てつい笑いが漏れる。 紅茶を取り上げてテーブルに置くと 抱きかかえクッキリ線が入った眉間を指で摩った。 「そんなに顔をしかめていると痕が残る。」 そう言うと へにゃっと恥ずかしそうに笑い 「バカなので。。多分せっかく話して貰っても わからないから。。すいません。」 「楓はバカじゃありませんよ。俺だって 楓が勉強していた事は全くわからない。」 前に ちょっと話を振った時 堰を切るように 聞き覚えの無い単語を並べられた時は驚いたものだ。 好きな事に対する探究心は凄まじく 出来ない事は多いが 得意な事や自信がある事は 人並み以上に能力を発揮する。 つくづく俺たちは違うなと感じる。 何でこんな事も出来ないのか。と呆れる時もあれば 何でこんな事が出来るのか。と驚く時もある。 ネクタイ一つ満足に締められない楓の様子を思い出し またクックっと一人笑い出す俺に 「もう。。何ですか。」と 楓は頬を膨らませ きゅっと睨んだ。
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