知る

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「高嶺さん。すいません。仕事までやっていただいて。 まあ。どうぞ。」 槙の父 康夫に勧められコップを出す。 ビールを注がれるとグッと飲み干した。 すぐにまた一杯まで注がれる。 返杯しようとすると 「高嶺さん!あんまり飲まさないでね! お父さん。ダメですからね!」 千夏がキッチンから顔を出し 大きな声を上げ ダメ出しをする。 哀しそうな表情になる康夫に そっとビールを差し出すと 嬉しそうにコップを出し 注いだ黄金色の液体を美味そうに飲んだ。 大皿に乗る刺身を持ち長テーブルにどかっと置いた 千夏が眉間にしわを寄せる。 康夫が首を縮めるのを見て 「千夏。いいじゃないか。たまには。」 と言うと 千夏は腕を組み 「お父さん。この間調子悪くなったんだから。 飲みだすと止まらないでしょ。」 「千夏ちゃん。大丈夫だから。ちょっとだけ。ね。」 康夫が拝むように手を合わせる。 「千夏。」 俺が咎める声を出すと はいはい。と千夏はため息をつき 「高嶺さん。ちゃんとセーブさせてよ。」 そう言ってキッチンへと戻っていった。 康夫と顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。 俺は樋口に代わり頭を下げた。 「すいません。相変わらずキツイ女で。 ご迷惑おかけしてないですか。」 千夏はガキの頃から知っている。 お転婆で口が達者で下手な男より男らしい女だ。 よくわかっていなかったガキの頃は本気で うちの組に入るつもりだったらしい。 まあ。千夏が男だったらあっという間に上まで のぼり詰めただろう。 肝っ玉が据わっていて 気風もよく うちの人間からも可愛がられていた。 槙と一緒になると聞いた時は驚いたものだが。 どうも千夏から積極的にアプローチがあったようで 槙は全面降伏し押し切られたらしい。 性格も正反対でどうなることやらと思ったが 意外と千夏が尽くすタイプで関係は良好の様だった。 「千夏ちゃんがいてくれるからうちは 回ってるんですよ。」 槙の母親の寛子が大皿のサラダを持って テーブルに置くとそう言ってまたキッチンへと かえっていく。 嫁姑も問題は無さそうだ。 俺よりも自分の子供みたいに思っているみたいです。と 槙からは聞いていたが本当にそうらしい。 さ。と既に空っぽの康夫のコップに またビールを注ぐと 「高嶺さん!!」 怒鳴り声が聞こえ 俺もビクッと首を竦めた。
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