知る

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「楓ちゃんは向いてないから 喫茶店のマスター やらされてんのよね。高嶺さんに言われて。」 千夏が魚の煮付けを持った皿を置きながら 横からそう口を挟んだ。 返事をする前に涼は納得し 「喫茶店のマスターは向いてるよな。 料理も上手いし コーヒーも上手いし。」 パタパタと動き回っている楓を眺めながらそう言った。 コイツも既にファンか。 槙と顔を見合わせ 苦笑し とりあえずうまく 誤魔化せたかとそのままにしておく。 槙も弟の隆も楓がマル暴のデカと知った時 かなり驚いたようだが コイツらも知ったらそうだろう。 ここにいてその事を知っている奴らには 箝口令を敷いておいた。 いつかはわかる日が来るだろうが 今は 潜入捜査中の身で バレる訳にはいかない。 「どうぞつまんで下さい。酒もありますから。 兄貴どうされますか。」 「ああ。じゃあ日本酒にする。」 横で千夏が頷き キッチンへと戻っていった。 樋口の妻で千夏の母は 千夏が小さい頃に 病気で亡くなり 必然的に家事をせざる得なかった 千夏は料理も上手い。 魚の煮付けも惣菜も濃いめではあるが味が良く こっちに来てから味付け濃くなっちゃった。と ケラケラ笑っていた。 すっかり漁師の妻だな。 ヤクザになるにはどうしたらいいの? と真面目な顔をして聞いていた頃からは 想像もつかない嫁の顔になっていた。 「楓!遊ぼうぜ!」 と 働く楓の足元に絡みつく瑛太の頬を捻り 「邪魔すんな!ほらこっちこい!」と 引きずる姿は 立派な母親でもある。 樋口が早くこっちに来たがっていると 仁から聞いていたが それはそうだろう。 娘と孫に随分会っていない筈だった。
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