知る

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「ただいま。」 赤ら顔の隆がひょこっと顔を出した。 今日は若い連中の集まりだったようで 帰りに寄ったらしい。家は隣で 娘が風邪を引いたからと 嫁は来れないと千夏がさっき言っていた。 「隆。おかえり。」 千夏が声をかけて 槙の横を譲り 皿や箸などを取りに キッチンへと向かっていく。 康夫は既に酔い潰れ 眠ってしまっていて毛布をかけて 気持ちよさそうにいびきをかいていた。 どかっと座った隆は 一升瓶を抱えていて 中には琥珀色の液体が入っている。 「高嶺さんに涼さん。遅くなっちゃって。」 隆は恐縮しながらも 目の前の盃を取り 俺から日本酒を注がれると グッと一気に飲み干した。 相変わらず酒の強い男だ。 元が来ると必ず飲み比べになり なかなか勝負がつかない。 隆は ああ。そうだ。と手に持っていた一升瓶を眺め 「矢野さん。お酒ダメでしたよね。 これ。俺の幼馴染の家で漬けた杏のジュースです。 うちの娘にって貰ったんで 飲みますか。 美味いですよ。甘くて。」 「杏ですか。。飲んでみたいです。」 楓が頷くと 隆は千夏が持ってきたグラスを手に取り 琥珀色の液体をなみなみと注ぎ はい。と手渡す。 「いただきます。。」 楓はコクっと一口飲み 顔を輝かして 「美味しいです。甘くて。。でも。。」 ちょっと首を傾げ それでもまたグッと グラス半分くらいまで飲む。 すると白い肌がだんだん赤くなり 途端に目がトロンとし始めた。 なんだ。 もしかしてこれは。。。 「隆。それ本当にジュースか。」 俺が聞くと 隆は え。と自分の目の前にある グラスにそれを注ぎ口をつける。 マズイ。。と顔を強張らせた。 「ごめん。。これ杏酒だ。。。」 ヤバイ。 急いでグラスを取り上げようと楓を見ると コクコクと全部飲み干している最中で 「楓!」と声をかけたが 楓ははぁ。。と空のグラスから 口を離し くすくすと笑い始めた。 「・・たかねさん。。もっとください。。」 と俺にグラスを突き出す。 どうした。と全員の視線が楓に集まり 俺はすくっと立つと 「佐々木。悪い。車回せ。」と声をかけ 勝手知ったる佐々木は はい!と立ち上がって 外へと飛び出していった。
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