知る

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急いで楓の横へ行き はしゃぎすぎて膝で眠って しまっている瑛太を抱いて千夏へ渡すと 「楓。帰りましょう。」と腕を掴む。 楓はいやいやと首を振り 「なんでですか。。おいしいです。。これ。 もっとのみたいです。。」 完全に舌ったらずの口調でそう言いながら 隆が味見をしたグラスに手を伸ばそうとする。 その手を取り 潤み始めた瞳を覗き込んで 「わかりました。家で飲んでいいですから。 ね。帰りますよ。」 楓は じっと俺の顔を見つめ ふわっと笑顔を見せると 細い腕を俺の首に回し抱きついてきた。 以前は言いたい事も言えず おどおどとしていたせいか 酒を飲むと目が座り俺を怒鳴り上げた事もある。 が 最近はこうなってしまうと 甘えモードが発動し 羞恥心のかけらも無くなり誰の目も気にせず こうやって纏わりついてくる。 可愛いが他の奴らには絶対に見せたくない楓だ。 周りがぽかんと口を開けているのを構わず 抱き上げ 背中におぶると 「涼くん。悪い。また話聞かせてくれ。 槙。後 宜しく頼む。」 「わかりました。矢野さん。大丈夫ですか。」 槙も立ち上がり 俺の背中に顔をぴったりとつけ くすくす笑っている楓を覗き込み その可愛らしさからか少し顔を赤らめた。 「酒が全く駄目でな。あれくらいの量でも即こうなる。 悪かったな。また今度埋め合わせする。」 「すいません。。高嶺さん。」 隆が自分のせいだ。。と下げる頭をぽんぽんと叩き 「大丈夫だ。疲れも溜まってたんだろうから。 明日一日休みだし寝かせとく。悪いな。」 そう言って涼にも頭を下げると 俺は佐々木が待っている玄関へと足を向けた。 佐々木が後部座席のドアを開け中に乗り込む。 送りに来た全員に楓が満面の笑みを浮かべ ひらひらと手を振り車はすっと走り出した。 その車を見送り 槙の横で千夏がぽつりと呟く。 「高嶺さん。あんな一面あるんだ。 ほんと楓ちゃんの事可愛がってるんだね。 あんな高嶺さんの甘い声。生まれてこの方 聞いた事無い。」 事情を知る槙と隆は顔を見合わせ 苦笑いを 口元に浮かべるとそれでも何も言わず 車のテールランプが見えなくなるまで ずっとその場に立っていた。
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