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水平線に一本の線がくっきりと入り空が
オレンジ色の淡い色合いに染まっていく。
そのグラデーションが美しく 楓はほっと息を呑んだ。
一箇所だけ色がどんどんと薄くなり
オレンジから黄色に色合いを変えていく。
黄金色に輝く太陽が頭を出し その光が
波間を照らして揺らめく光の道が現れる。
「綺麗。。。」
楓は浴槽に両腕を置き 顎を乗せて見入っていた。
海が照らされていくように楓の白い肌も
黄金色にゆっくりと染まっていく。
水滴が身を纏い 光を反射してキラキラと輝き
「綺麗ですね。」
俺は楓を眺めながらそう言った。
その意味合いが違う事に気づいたのか
楓はそっとこちらを振り返り きゅっと俺を
睨みつける。
クッと笑い楓を抱きしめて一緒に朝日へと目を向ける。
漁に出るのは明け方で 俺は毎朝この朝日を
船の上から眺めている。
楓にも見せてやりたいといつも思っていた。
海はいい。
昔 いつも一人で海を眺めに行っていた。
祖父の家へ遊びに行くと家を出て
本を読みながら電車の窓から海を眺め
祖父の家がある街の一駅前で降りて
海岸線を歩き 手すりに身を預けまた海を眺める。
穏やかな波音はいつも優しく俺を迎えてくれ
心の隙間を埋めて貰っているような気がしたものだ。
船に乗りたい。
乗ってどこかに行ってしまいたい。
そんな風に思っていた事もある。
今 ひょんな事から俺は船に乗っている。
海の上で眺める景色は
今まで陸から見ていた景色とはまた違い
雄大で自分がちっぽけな存在であるとさえ思わされた。
それでも俺はもう一人ではない。
俺には楓がいる。
一緒に海を眺め 一緒に感動し 喜んでくれる存在が。
太陽は姿を完全に現し その光はだんだんと
空と馴染み始め 穏やかな色合いへと変化すると
空は青さを増していく。
今日もいい天気になりそうだ。
楓を抱きしめ 顎を持って振り向かせると
顔を近づけてそっとその可愛らしい唇を吸った。
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