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時は平安。闇夜ともなれば、人ならざる者が跋扈する。
【宮中ー殿上の間ー】
近頃、噂好きの殿上人たちの口にのぼるのは、鈴鹿峠に
現れる大嶽丸と呼ばれる鬼の話だった。
「聞いておじゃるか?少納言家の三の姫も攫われたそうじゃ」
「それはまことか?」
「これでは夜の散策もお預けじゃの」
別の上達部が異議を唱える。
「何を悠長なことを!今では鈴鹿峠を通るのも難しいと聞く」
「しかしここは主上のおられる都。そうそう鬼奴も近づけぬはず」
かすかな衣擦れの音ともに主上が現れる。
それに従い、お喋り3人組の口も止まる。
脇息にもたれ、物憂げに主上は話される。
「皆も知っておるとは思うが、昨日も鬼が現れた」
「嘆かわしいことです」
ササっと前に出た殿上人。先ほど噂にのぼった少納言である。
「何卒、我が姫の救出をご命じください」
別の上達部が口を挟む。
「誰が討伐に行くのじゃ?少納言殿か?」
「私は……あの……」
「何じゃ、行かれぬのか」
「そなたの家は姫君がおられぬから、そのような事を!」
「主上の前ぞ!口を慎め!」
上達部たちはひれ伏した。
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