私物泥棒

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筆箱が新品になっていた時には、悲しかった。 僕の筆箱は、母親の手作りだったからだ。 端布れでパッチワークして作った、1年生の時から使っている、ボロボロだけど僕にとっては大事な筆箱だったのに…。これだけは返してほしかった。 僕は本気で探した。机の中、ランドセルの中、ゴミ箱の中…休み時間の度に、学校中を探し回った。焼却炉の中までくまなく探したのに、見付からなかった。 新しい筆箱と引き替えに、思い出を捨てられた様な気がして、僕の目に涙が滲んだ。 ちょっとだけ腹も立った。犯人と、この出来事の当初、単純に新しい物に喜んだ自分に。 バカか僕は…のちに大事な物を捨てられるというのに。
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