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 貴方(あなた)のその白手袋(しろてぶくろ)(けが)れた所を、私は今まで一度も見たことが無かった。 この十八年間、一度も。 そして、その中の手も、目にしたことも無かった。 今、危機的状況でチワワのように怯える事も、警察を呼ぶ事もできない、ただの人質(ひとじち)の私は、助けに来てくれた貴方を見て考えていた。 ずれた目隠しから僅かに見える貴方の背。 (あか)い花を咲かせ、息を切らしている貴方の身体(からだ)。 ――床に捨てられている貴方の白手袋。  遠くにサイレンが聞こえ始め、犯人達はベタな捨て台詞(せりふ)を残して、逃げていった。まるでドラマのシーンだわ、と思うと同時に、緊張の糸が緩み、地べたに座り込む。 「ご無事ですか、お嬢様?!! 」 貴方にもそんな一面があるのね、決して口には出さない。多分、貴方は怒っちゃうから。 「ええ、大丈夫よ。それより貴方の方が重傷(じゅうしょう)だわ!早く警察に事情を話して、病院へ行かないと」 間違ったことは言っていないはずなのに、貴方の頭上にハテナマークが見える(ほど)の表情をされた。 「……あぁ、あのサイレンですか。あれは、(わたくし)の携帯にある音を鳴らしただけですよ。警察は来ません」 「え」次は私がその表情を貴方に向けた。 「すごいのね、貴方。さ、早く帰って手当てをしましょ」歩こうとしたら、足がもつれてこけそうになった私の身体を、貴方が咄嗟(とっさ)に支える。 「あ、ありがと……」 貴方の手を見つめる。不慣れな家事による絆創膏(ばんそうこう)がいくつも貼られている。大きくて、温かい――。 私の手と腰に添えられた、貴方の手のぬくもりで、身もココロもじんわりと温まっていく。顔が火照(ほて)り、鼓動が早くなっているのが嫌でもわかる。指と視線が絡まり、離せない。もっと、貴方のぬくもりを感じていたい。もっと、貴方に触れていたい。 気付いた時には、貴方にキスした私がいた。
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