自分探し

　身の周りには白がある。

　本屋から帰る道の途中、僕は思った。
　空気も白だし、空に浮かぶあの雲も白。木々の隙間から差し込む柔らかな陽の光も白。
　普段、普通に生活していれば気付かないことも、注視すれば沢山気付ける。
　白とはそういうものなのだろう。目立たない癖に、いざ気付いてみるとその存在を大きくさせる。

　そんな白を意識しつつ、止めていた歩みを進めようと前を見ると、新緑を思わせるブレザーを着込んだカップルが、仲睦まじそうに歩いてくる。
　彼らは僕の方をちらりと見ると、可愛らしい笑顔で会釈してくる。一瞬誰か分からず首を傾げたが、直ぐに思い出す。どうやら近所に住んでいる子達のようだ。

　彼らに合わせるように笑顔で会釈を返す。

　すぐ傍を幸せそうな顔で過ぎ去っていく彼らを傍目に、僕は一つ、ため息をついた。
　歳を取ってしまうと、衰えを感じてしまってどうもダメだ。記憶力には自信があっただけ、直ぐに思い出せなかったのはショックだった。