物語を読む

2/2
前へ
/4ページ
次へ
『白血球が多すぎる僕と少なすぎる君』 白血球が多すぎるマサルと、白血球が少なすぎるルナは恋をした。 病院のkioskで、同じチョコレートをいっせーの、せっ。みたいに同時に掴んでさ。 まるで映画みたいな、ベタな出会いだった。 マサルの治療方法はドナーが現れるのを待つのみで。ルナの治療方法は、未だ確立していなかった。 ふたりとも、どこかで諦めなきゃいけない未来を覚悟していた。 だからかな。 ふたりは明日を恐れるみたいに、大急ぎでお互いを求め合った。 毎日のようにふたりは愛瀬を重ねた。会えない時は、メッセージを送りあった。 西の病棟と東の病棟とで、まるでロミオとジュリエットみたいだね、って笑いあった。 いっそ、ふたりの身体が1つになってしまえばいい。 そうしたら、ふたり一緒にずっと幸せに生きていけるのに。 ねえ、そうでしょう。 そう言って、ルナは笑った。 身体が1つじゃ、こんな風に君に触れることができないよ。 だから、このままでいい。 そう言って、マサルはキスをした。 病院の屋上で、駐車場で、談話室で。 時には、人気のない秘密の部屋を探す冒険に出たりして。 なんてスリリングで、楽しい冒険だろう。 長い病院生活がこんなにも楽しくなるなんて。ううん、生まれて初めて幸せを手に入れた。そんな気持ちだった。 時にはどちらかが、起き上がれないほど体調を崩すこともあった。 本当は、ふたりとも病室から出ない方がいいんだ。 ましてや、他の患者に会うなんて。 もっとも危険なことは感染症だってこと、ふたりともよくわかっていた。 それでも、ふたりは会い続けた。 誰にも言わなかった。 だって、バレたら『命を縮めるような馬鹿な真似を』と怒られてしまうだろう。 それとも、未来を絶望したふたりが、ヤケを起こしていると思うだろうか。 そうじゃない。 ただ、命を削るよりも大切なことがふたりにはあった。 恋する気持ちも、愛し合う行為を望む心も、それらは誰の胸にも宿るもの。 たとえ命のロウソクが他の人のより短くとも。 ふたりは駆け足で愛し合い、そして時を止めた。 白血球が多すぎるマサルと、白血球が少なすぎるルナの物語。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加