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『白血球が多すぎる僕と少なすぎる君』
白血球が多すぎるマサルと、白血球が少なすぎるルナは恋をした。
病院のkioskで、同じチョコレートをいっせーの、せっ。みたいに同時に掴んでさ。
まるで映画みたいな、ベタな出会いだった。
マサルの治療方法はドナーが現れるのを待つのみで。ルナの治療方法は、未だ確立していなかった。
ふたりとも、どこかで諦めなきゃいけない未来を覚悟していた。
だからかな。
ふたりは明日を恐れるみたいに、大急ぎでお互いを求め合った。
毎日のようにふたりは愛瀬を重ねた。会えない時は、メッセージを送りあった。
西の病棟と東の病棟とで、まるでロミオとジュリエットみたいだね、って笑いあった。
いっそ、ふたりの身体が1つになってしまえばいい。
そうしたら、ふたり一緒にずっと幸せに生きていけるのに。
ねえ、そうでしょう。
そう言って、ルナは笑った。
身体が1つじゃ、こんな風に君に触れることができないよ。
だから、このままでいい。
そう言って、マサルはキスをした。
病院の屋上で、駐車場で、談話室で。
時には、人気のない秘密の部屋を探す冒険に出たりして。
なんてスリリングで、楽しい冒険だろう。
長い病院生活がこんなにも楽しくなるなんて。ううん、生まれて初めて幸せを手に入れた。そんな気持ちだった。
時にはどちらかが、起き上がれないほど体調を崩すこともあった。
本当は、ふたりとも病室から出ない方がいいんだ。
ましてや、他の患者に会うなんて。
もっとも危険なことは感染症だってこと、ふたりともよくわかっていた。
それでも、ふたりは会い続けた。
誰にも言わなかった。
だって、バレたら『命を縮めるような馬鹿な真似を』と怒られてしまうだろう。
それとも、未来を絶望したふたりが、ヤケを起こしていると思うだろうか。
そうじゃない。
ただ、命を削るよりも大切なことがふたりにはあった。
恋する気持ちも、愛し合う行為を望む心も、それらは誰の胸にも宿るもの。
たとえ命のロウソクが他の人のより短くとも。
ふたりは駆け足で愛し合い、そして時を止めた。
白血球が多すぎるマサルと、白血球が少なすぎるルナの物語。
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