第1話 旅立ち―1

4/10
前へ
/43ページ
次へ
でも、1人の師としてはとても尊敬している。 森の中で薬草のことを教えて貰ったり、実戦形式で体術を学んだり、おねぇは医術を一生懸命学んでいるのをいつも隣で見ていた。 師匠は、結構おしゃべりで口煩い人だったけど、その厳しさは優しさなんだと最近気付いた。 師匠には技術や知識を。 ローラー夫妻と娘のリンには優しさと温かさ、家族の大切さなど『心』を貰った。 彼らがいなかったら私達はどうなっていただろうと思う。 「あの、今まで有難うございました」 食べ終わったお皿にフォークを置いて4人にお礼を言う。 「今まで育ててくれて有難うございました」 顔を上げて4人の顔を見る。 師匠は相変わらず澄ました顔をしている。 この人はいつも冷静だ。 ローラー夫人は、目を赤くしてハンカチを目に当てている。 夫の方は、腕を組んだまま目を閉じている。頑固な彼らしい。 娘のリンは、ボロボロと涙を流す。 机の上には小さな池が出来上がっていた。 「本当に、成長したよ貴方達は。師匠が貴方達を連れてきたのがつい昨日のように思えるわ。貴方達は私達夫婦の子のようなものよ。ねぇ、あなた」 夫人は、ハンカチで涙を拭き取りながら夫に話を振った。 「ああ。本当にそうだ。血こそ繋がっていないが、血の繋がりがあるからと言ってそれが『家族』だとは限らない。子供たちにとっての心の光であって欲しいと俺は思う」 彼は、台所からコーヒーを人数分取り出して置いてくれた。 「子はいつか親から離れる。いつまでも親に頼っていてはいけないからな。でもな、赤ちゃんや年少の頃に『親の温かさや温もり』、『自分を大切にしてくれる人がいる』ことを体験した子供はいつまでも心の拠り所がある。逃げ道があることは大切なことだ。それが存在するだけでいいんだ。その存在が親であり、家族なんだ。俺は少なくともそう思っている」 そう。 この人たちはいつもそうだった。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加