6人が本棚に入れています
本棚に追加
「わりと交通量の多いスクランブル交差点だったんですよね──」
アイさんはその日、ショッピングを終え、日が落ち始めた頃、帰路についた。
「その交差点、つかまっちゃうと長いんですよ。それでちょっとSNSでもチェックしようと思って」
ショッピングバッグを両腕にいくつかぶら下げながら、アイさんはスマホをいじりはじめた。
暫くスマホの画面に目を落としていると、両隣からすっと数名が進んだ気配がした。アイさんは横断歩道の先頭に立っていたので、信号が青に変わったんだと、スマホに目をやったまま歩き始めた。
「二、三歩ほど進んだ時だったかな、クラクションの音がすぐ側で聞こえて──」
激しい警笛の音が聞こえた瞬間、同時に右腕を強く掴まれた。目の前、数十センチ先を軽トラが走り抜けていった。
「心臓が、飛び出すんじゃないかってくらい強く鳴ってました」
振り返りアイさんの腕を掴んだ女性を見ると「なにやってるのよ! 赤じゃない!」と怒鳴りつけられた。
「確かに、信号を確認しなかった私が絶対に悪いんです。──だけど......」
前に歩いて行った人達は? と気になりアイさんは横断歩道を振り返ってみた。
「ほんとに怖かったです。......四、五人くらいでしたかね──」
それは、スーツ姿の男性や、制服を着た女の子など、様々だったらしい。
車が横切る横断歩道の真ん中辺りでアイさんをうらめしそうに眺めながら歩き続けていたそうです。透けた身体で、顔はこっちを向いているのだが、身体は背中を向けている。
「首がこう、ぐるんと百八十度、回ってて──」
それらは、やがて向こう側で信号待ちをしている群衆に紛れ、消えていったそうです。
「後で聞いた話なんですけど、その場所はよくでると噂の交差点だったんです。歩きスマホが原因で何人か事故に遭って亡くなってるって──」
「歩きスマホだけが原因なんですかね?」とアイさんは最後にぽつりと呟いた。
以来、アイさんは絶対に歩きスマホをしない。
最初のコメントを投稿しよう!