第一章

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「決めるのはお前だ。お前が、最も幸せになれる道を選べ。誰よりも大切なお前のためにおれができるのは、お前の決定を見守ることだ」  心の底から、蓮の幸せを願っている。事実ではあっても、伝える必要はなかったはずだ。  この言葉は、蓮を追い詰める。  ――亮が被った、偽善者の面が。 「誰よりも、大切な――」  蓮が、口の中で咀嚼するようにゆっくりと呟く。何処か熱っぽさを含んだ瞳が、亮を見上げていた。 「嬉しい」  すん、と鼻をすする音と同時、蓮が腕の中に飛び込んでくる。反射的に抱きとめた。  男にしては細い亮の腰に、蓮の腕が回る。 「亮様が私のこと、それほどまで気にかけて下さっていたなんて。蓮は、果報者です」  薄い胸板に頬を埋めた蓮が発したのは、涙声だった。  亮は蓮の背に腕を回して、柔らかく抱きしめる。  抱擁は珍しくない。兄妹のように仲よく育った二人には、日常的な触れ合いだった。  なのに何故か、息詰まるような苦しさを感じる。  何故、これほどまでに胸が騒ぐのだろう。  蓮の髪から発せられる花の香りに、亮は深く瞼を閉じた。
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