21人が本棚に入れています
本棚に追加
「決めるのはお前だ。お前が、最も幸せになれる道を選べ。誰よりも大切なお前のためにおれができるのは、お前の決定を見守ることだ」
心の底から、蓮の幸せを願っている。事実ではあっても、伝える必要はなかったはずだ。
この言葉は、蓮を追い詰める。
――亮が被った、偽善者の面が。
「誰よりも、大切な――」
蓮が、口の中で咀嚼するようにゆっくりと呟く。何処か熱っぽさを含んだ瞳が、亮を見上げていた。
「嬉しい」
すん、と鼻をすする音と同時、蓮が腕の中に飛び込んでくる。反射的に抱きとめた。
男にしては細い亮の腰に、蓮の腕が回る。
「亮様が私のこと、それほどまで気にかけて下さっていたなんて。蓮は、果報者です」
薄い胸板に頬を埋めた蓮が発したのは、涙声だった。
亮は蓮の背に腕を回して、柔らかく抱きしめる。
抱擁は珍しくない。兄妹のように仲よく育った二人には、日常的な触れ合いだった。
なのに何故か、息詰まるような苦しさを感じる。
何故、これほどまでに胸が騒ぐのだろう。
蓮の髪から発せられる花の香りに、亮は深く瞼を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!