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「それが誘い以外の何に思えるのか、お前は」
「そうか――やはりお前もそう思うか」
そう思うも何もない。
同時に納得した。突然我が身に起こった幸福に、現実味を感じられなかったのだろう。
亮にも断定されて、ようやく確信に到ったらしい。みるみるうちに頬が紅潮する。
後押しをしてやるつもりならば、喜んでやらなければならないはずだった。
けれど、言い様のない苛立ちが胸を襲う。ふんと鼻を鳴らした。
「あまり期待はするなよ」
寝そべっていた臥牀から身を起こす。片眉を上げて腕を組み、座った状態から月龍を見上げた。
「あれは幼い娘だ。花畑に連れて行けと言われたなら、ただそれだけの意味かもしれぬ」
「だが、それならばわざわざ、おれにお声かけ下さるとは思えん」
月龍の目が、花瓶に活けた花を見る。
確かに今までも、従者を伴って何度も通っていた。別に頼まずともいいのだから、月龍の言い分は理解できる。
そうだなと応じてやるべきなのに、何故か認めたくない。
「いつも従者と一緒ではつまらぬだろう。車で行くより馬の方が早いしな。そう思い立ち、従者ではなくて頼めそうな人物ということで、おれの友人であるお前を思い出したにすぎん。期待をしすぎると、後が辛いぞ」
「だがな亮、期待するのが人情ではないか。あのように愛らしく笑われては、なおのこと」
「よくいるのだ。あの笑顔が自分にだけ向けられていると勘違いして、舞い上がる莫迦が」
「それがおれだと言いたいのか」
喜びのために弛んでいた頬が凍りつく。
毒舌に怒ったのではない。不安なのだ。怒気を含みながら、弱さを宿す眼光に呆れる。
否、呆れたのは自分自身に対してかもしれない。
さすがに意地悪が過ぎた。自嘲を苦笑に紛れさせ、軽く肩を竦める。
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