第一章

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 空は、爽やかな夏晴れだった。  暑くもなく、寒くもなく、頬を撫でていく風も心地いい。  本当は迎えに行きたかったのだが、訪ねて行ったとしても、月龍の身分では門前払いされるのは目に見えていた。  蓮もわかっているから、待ち合わせの場所を王宮の中庭にしたのだろう。  宮殿には頻繁に出入りしている。亮に会うためだが、そういった時に従者は宮殿まで送り届けると、引き返すそうだ。帰りは亮の衛士に送られる習慣らしい。  その役割を月龍がすればいいだけだ。  だからこそ蓮もそう提案したのだろうと言われて、納得した。  中庭には桃の木がある。  嘘か真か、初代王である禹の頃から、遷都の度に植え替えられて今に至るとさえ言われた大木だ。  今の季節花はすでに落ち、膨らみかけた青い果実が葉の間から覗いている。  その下で待つ蓮の姿に、月龍は瞬いた。  待ち合わせていたのだから、蓮がいるのは当然である。  けれど姿を見るまでは、誘われたのが都合のいい夢だったような気もしていた。  否、実際に蓮を目にしてさえ、幻を見たのではないかと思うほどだった。  それからのことを、実はよく覚えていない。緊張のせいか、度を越した喜びのためかは自分でもわからなかった。  ただ共に乗馬し、後ろから抱く格好になった蓮の、髪から漂う花の香の鮮やかさに、意識を奪われていた気がする。  花畑に着いてからの蓮は、楽しそうに見えた。常以上にも思えるにこやかな笑みを刻み、亮に贈るための花を摘む。  月龍も初めのうちは、夢見心地のまま手伝っていた。  けれど、不意に気付いてしまったのだ。自分は何故、惚れた女が、他の男を想ってすることを手伝っているのかと。  蓮はしきりに話しかけてくれたが、話題はすべて、亮のことだった。  唯一の接点だから当然だとわかっている。  月龍が無口な分、気を遣ってくれているのも、亮といる時にはない饒舌さを見れば気付いていた。  それでも、こうも亮のことばかり話されては興醒めするのは事実だった。蓮の中にある亮の存在の大きさを思い知らされる。  あまり期待はするなと言われた通りだった。  喜びが大きかった分、襲ってきた切なさが急激に胸を冷やす。 「そろそろ戻りますか」  月龍から声をかけたのは、今日初めてのことだった。  花を摘む手を止めて振り返る蓮の顔に、驚きが浮かぶ。
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