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後世の人間が紀元と定めた年を遡ること、千五百年余り。
黄河流域から揚子江流域にかけて高度な文明が発達した。その最たるものが夏王朝――華北を統一した、初めての王朝である。
初代から数えること十数代。現在の王、履発の時代には、繁栄の陰に生まれた歪みが、修繕できぬ程に大きくなっていた。
否、一度は立て直されかけたのだ。
履発は大きく逞しい体躯の持ち主で、叡智と聡明さにおいても、伝説の初代国王、禹にも引けをとらぬ傑物だった。
しかし十数年前にその姿は消失する。正宮、瑤姫が出産の折りに若い命を散らしたのだ。
愛情の深さの分、寵姫を失った嘆きも深かった。
すべての歯車が狂ったのはそれからだった。
王子、峻の存在も履発の慰めにはならなかった。
峻は我が子である以上に、瑤姫を失った元凶でもあるのだ。愛情など抱けるはずもない。
政治にも興味を示さなくなり、履発は最も単純な逃避場所を見つけた。
酒と女だ。
妹喜という女に入れ上げては、国庫の中を省みずに贅沢を許す。
見兼ねて讒言した忠臣は、容赦なく処刑した。
そのようなことを繰り返していては人心が離れていくのは必至で、当然国力も低下する。
だが現在はまだ強力な外敵もおらず、衰えを見せながらも、王朝の交代や滅亡を予想する者はなかった。
瑤姫の忘れ形見、峻の字は亮。母によく似た美貌の王子が王の名乗りを上げる日を、人々はただ待ち侘びている。
それはすなわち、現王の死をも願うことに他ならなかった。
将来を嘱望されながらも名声を地に落とした王、履発――後にされた諡を、桀といった。
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