第一章

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 頬杖をつき、窓の外を眺めてはため息を落とす。  部屋の中に目を転じては、嘆息する。 「いい加減にしないか、月龍(ユエルン)」  さすがに腹に据えかねて、声をかけた。 「これで何度目だ。そうため息ばかり吐いていては、息を吸う暇もないのではないか」  (リーアン)の皮肉に、月龍が眉をひそめる。  そもそも話は、月龍の一目惚れから始まった。  何でも郊外で迷っていた女と出会い、邑まで送ったのだと言う。  館の前まで送ると申し出たものの、もう道はわかるからと断られ、結局は名もわからぬままに別れたらしい。  だがその相手が判明するまで、ほんの一刻しかかからなかった。  月龍が己の身に起こったことを真っ先に話すとすれば、亮しかいない。常ではありえぬ饒舌ぶりで運命的な出会いを語り、相手の特徴を並べ始めた頃、彼女の方から姿を現したのだ。  少女の名は、(レン)。亮の従姉妹だった。  公主と呼ばれる立場にありながら、蓮は度々、型破りなことをやってのける。  道に迷ったのも、市場に出た時に従者の目を盗んで抜け出したせいなのだから、呆れたものだ。  月龍はそれまで、「蓮公主」を毛嫌いしていた。  何かの儀式の折りに見かけた蓮が、如何にも公主然とした美女に見えて、苦手意識をもっていたと聞く。  自らの出自に劣等感を抱く月龍には、身分の高さを鼻にかけた厭な女に見えたらしい。  だが公を離れた蓮は、未だあどけなさの残る少女だった。  普段は化粧もせず、髪も上部を丸くまとめただけで、下ろしている。おそらくは父王に反発し、だらしない格好を気取っては、髪を結いもしない亮の真似もあるのだろう。  幼い頃から亮と蓮は、兄妹のように過ごしてきた。  同じく、幼少時代を亮と共にした月龍と面識がないのはおかしなことだが、理由は簡単である。前述のように毛嫌いしていた月龍が、徹底的に蓮を避けていたのだ。  だが蓮の方は、月龍の顔を見知っていた。亮の友人だからと気にかけていたのもあれば、月龍自身、よくも悪くも有名だから当然である。  むしろ、髪を結い化粧した姿しか知らぬとはいえ、気付かなかった月龍が鈍いのだ。
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