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怒ったような口調だが、実は不安の現われだと亮にはわかる。
また、言いたいことも理解できた。政略結婚は、当事者の感情に左右されるものではない。
たとえ、月龍と蓮が結ばれたとしても結果は変わらず、悪戯に辛い想いをするだけではないか。
それくらいなら、想いは秘めたまま諦めた方がい、と思っているのだろう。
亮は笑う。
「それはないな。親父は蓮を、大層可愛がっている。あれが悲しむような真似はせんだろうし、それでなくともおれと蓮の婚姻を快く思っていない」
そうでなければ、亮の気分だけで先延ばしにできるはずがない。
暗愚と成り果てた王も、姪の蓮には何故か甘かった。その可愛い蓮を、嫌っている亮に娶わせることを忌避しているのは、目に見えている。
「前例のないことだが、何処からか遠縁の娘を養子にでも入れておれにあてがい、蓮には惚れた相手との幸せを、とでもぬかしそうだ」
先送りになっているのは婚姻だけではない。二十一を過ぎた今になっても、亮は立太子していなかった。
その事実が、言葉以上に王の気持ちを物語る。
「悪かった」
亮の言わんとすることを、理解したのだろう。月龍が気まずそうに詫びた後、けれど、と続けた。
「そちらは片がつくとして、亮、お前の気持ちはどうなのだ」
「おれの気持ち?」
聞き返して、苦笑する。
そういえばと思い出したのは、心配げに歪んだ嬋玉の顔だった。
幼い頃、亮と月龍は共に嬋玉を訪ね、後宮に忍び込んでいた。だから嬋玉も月龍を知っている。
月龍が蓮に惚れたと知ればさぞ驚くだろうと、こっそりと報告に行ったのだ。
その時、弟のように思う二人が蓮を巡って争うことになるのでは、と心配された。
「よしてくれ。お前までそのような戯言を言うのか」
「お前まで? 他の誰かにも言われたのか」
「ああ、嬋玉殿にな」
「やはり」
項垂れるように呟かれて、辟易とする。
「いや、だからそのようなことはないと言っているだろうが。まったく、嬋玉殿といいお前といい、おれはそれ程、蓮に惚れているように見えているのか」
「見えるさ。お前はあの顔を見ていないからそのようなことが言えるのだ」
「あの顔?」
「蓮様と話している時の、優しげなお前の顔だ」
「当然だ。おかしなことを言うな」
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