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妄想名人アリシアちゃん
「クッフッフ、準備は出来たようじゃなぁ」
眼前の容器は赤い液体で満たされている。
血のように、いやそれよりも美しい光沢を纏った赤だ。
今にも苦悶に満ちた嘆きの声が聞こえてきそうじゃあないか。
「我が名を呼べ、そして畏れ称えよ」
ーーシア。
「宵闇の魔女とは通り名に過ぎぬ。大いなる宿命と共に授けられた、我が真名は……」
ーーアリシア!
◆
私が頭に大変な痛みを感じていると、続けてパパからの叱責が飛んできました。
ここは住み慣れた我が家です。
更に細かく言えば、14年もの間ずっと大した変化を見せない、愛すべきダイニングルーム。
一家団欒のお昼ご飯中だというのに、パパは怒り顔、ママは沈みきったような表情をしている所です。
「アリシア、いつも言ってるだろう。妄想に耽るのはやめろって!」
「はぁい。ごめんなさぁい」
私は自分の不利を察知して速やかに陳謝。
口ごたえする事なく、食べかけのトマトスープを平らげるのでした。
妄想のきっかけはトマトの赤みだったのかと、心の中で自己解決しつつ。
「まったく。しょうがない娘だ。これはもう一度、お医者様に診ていただいた方が良いかもしれんな」
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