1人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「だからぁ、その敬語をやめろっての」
「あ、すみません」
「ほら、それ!」
月、水、金曜日の昼休みには、川野さんがこの場所に来るようになった。屋上の一歩手前の空間で持ち寄った意見を交わす日々が続いていた。
「じゃ、私は? どうすればいい?」
川野さんは目を輝かせて聞いてくるが、明るい人の気持ちなど分かるはずもない。しかし何か言わなければ、またいつものように怒られる。ともかく今の状況を打破するにはと、咄嗟に思いついたのがこれだった。
「と、友達を......捨てる、とか?」
「......はぁ? 何言ってんのよ、そんなのできる訳ないじゃん!」
「だ、だよね......ごめん」
「あ! 出来たじゃん! タメ語」
手を取り合い喜んだ、僕はその手の感覚に全ての神経を集中させていた。その後、何度も敬語を使わない練習をした。川野さんの手を繋ぎたいがために――
「あー、舞。こんな所にいたん......だ?」
たまたま通りすがりの女子が僕達に気がついた、その語尾は疑問系になった。
理由は言うまでもないだろう、敬語を使わなくなったといっても見た目は根暗な僕。川野さんと一緒にこんな場所にいるだけで不自然だ。
「あ、違うの、これは」
「えー、そうなんだぁ、舞がねぇ」
慌てる顔の川野さんは、完全に僕達の関係を疑って見ている女子に駆け寄り弁解にも聞こえる言い訳をする。「付き合ってない」何度もその言葉が聞こえた――
最初のコメントを投稿しよう!