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蒸気自動車は、真っ白な蒸気を吐き出しながら森林脇の小道を抜けると、広大な草地を横切る道路へと出た。真冬に湿潤な気候になる王都は、温度が低くても草地が枯れることがない。
しかしながら、今日は朝から雪が降っていた。純白の雪は所々に牧草の上を覆って、白と緑のコントラストを描き出していた。
「何だってお前が隣にいるんだよ」
トニヤは、ちゃっかりと隣に座ったダーオ・ブッチーニを睨みつけた。シャム猫の美少女は、伯爵邸が準備した送りの馬車を丁重に断って、子爵邸の蒸気自動車に乗り込んできたのだ。
「だって蒸気自動車なのよ。火を焚くから馬車よりも暖かいし、生まれて初めて乗るわ」
「嘘をつけ。この前はアネッサの遠出につき合って、伯爵邸の車に乗せてもらったと自慢していただろう」
「だ、だってロレダーノ伯爵邸の車は、ペガサスのように純白よ。牡牛みたいに頑丈で真っ黒の車は初めて、ということ。嘘なんか吐いちゃいませんから」
「ああ言えばこう言う奴だ。お前の舌と頭は、車のタイヤ並みに回るな」
トニヤは窓枠に肘をつくと、やれやれと深いため息をついた。
「ねえ……話は変わるけど」
少女猫が画家の腕を肘で突いた。運転手の耳を気にしているのか、声のトーンが下がって小声になっている。
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