4 貧乏画家は、馬車を追って屋根の上を走る

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「ダーオ、マイケル様はどうした? 一緒じゃないのか」 「あんな子知らないわよ。せっかく楽しく子供部屋でお話していたのに、誰かが呼びに来たと思ったら、そのままいなくなっちゃったのよ。招待したレディをほったらかしにするなんて、紳士のすることじゃないわ」 「しまった。遅かったか!」  トニヤは廊下の窓に張り付いた。眼下には子爵邸のロータリーが見え、医師が乗ってきたと思われる二頭立ての四輪箱型馬車(ブルーム)もそこにあった。しかしその馬車は、すでに外套姿の御者が手綱を握っており、ゆっくりと動き始めていた。 「逃げられるぞ。きっとマイケル様もあの中にいるはずだ」 「こっちへ来い。先回りできる」  ジャックは廊下を走ると、公園へ面した窓を押し開けた。馬車は子爵邸脇の私道を通り、馬車道へ出るものと予測したのだ。 「離れの屋根の上を走るぞ。そして鉄柵を飛び越えて馬車道へ出る。柵の先端は鋭い槍になっているから気をつけろ」 「あんた、絶対に執事には見えないぜ。言葉遣いも悪いし、やることがメチャクチャだ」 「そうか? 旦那様には気に入られているが」 「僕もだ。メチャクチャな奴は大好きだよ」  二匹は窓から飛び出した。
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