5 医者は両手で頭を抱えて、海老のように背中を丸めた

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 急勾配になった離れの屋根には、まだ所々に雪が残っていた。雪溜りにうっかり足を乗せてしまうと、そのまま滑り落ちそうで恐ろしい。  庭園越しに鉄柵の外の様子を眺めると、バートン医師の馬車が子爵邸の鉄門を通り抜けて、緩やかなカーブになった私道へ出る様子が見えた。  二匹は、屋根材を踏み抜かないように注意しながら屋根を渡ると、馬車道へ飛び降りた。もうじき私道を回り込んできた馬車が姿をみせるはずだ。  ジャックは馬車道脇に茂る雑木林の中に飛び込むと、雑木の枝をつかんで次々とへし折った。 「おいおい。そんなものを使って、いったい何をする気だい?」 「馬車がやってきたら、こいつを馬の鼻先に突きつけるのさ。そうすれば馬が驚いて、馬車は制御不能になるはずだ」 「メチャクチャだなぁ。でも、いい考えだ」  二匹はそれぞれに枝を握ると、雑木林に身を隠した。 「やって来たぞ。それ! 馬たちをビックリさせてやれ」  突然行く手を塞がれて暴れ出した馬たちを、御者は止める術がなかった。  次々に繰り出される枝先に、馬車は制御を失って、レンガ敷きになった馬車道の上を独楽のように旋回した。そして、ついには道脇の雑木に引っかかると、あえなく停止してしまった。
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