ラプンツェルの長い髪

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 私は??責されると思ったが、彼女の声は思ったよりも柔らかい。彼女は頭の横にミネラルウォーターを置いて、あと五分くらいしたら飲んでください、と言って立ち上がろうとした。 「あの、ありがとうございました。何かお礼をさせてください」 「気にしないでください」 「でも」  私が言葉に迷うと、彼女は目にかかった前髪をかき上げて、少し困った顔をした。これ以上、何か言うのは失礼だろうかと思いつつ、私の舌は止まらなかった。 「私、ひとりで来ているんです。時間の都合はいくらでもつくので」 「奇遇ですね。私もひとりなんです。明日、観光に付き合っていただけますか?」 「ぜひ一緒に行かせてください」 「では明日、朝九時に旅館の前で」 「わかりました」 「それと、今日はもうお酒は控えてくださいね」  彼女の笑みに私は小さく頷き、脱衣所を後にして彼女は温泉に戻った。夢から覚めたみたいだ。お酒で紛らわしていた乾きも、身体から発する嫌な臭いさえ、私の中から消えていた。さっきまで貧血を起こしたはずなのに、不思議なほどに身軽になっている。無償の心配を久しぶりにされて、不謹慎ながら嬉しかった。私は脱衣所で身を横たえながら、ぼんやりと明日が楽しみだなと思う。  昨日は早めに休んで、朝食を済ませると出かける準備をした。ワンピースを着て玄関で靴を履くと、彼女はすでに出口で待っていた。 「おはようございます」     
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