ラプンツェルの長い髪

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 声をかけると彼女はほほ笑んで、おはようございます、と言った。昨日は余裕がなかったが、改めて彼女を見ると、綺麗だけれどもそれ以上に格好いいひとだなと思った。背が高く、短くカットされた髪。それに加えてマニッシュな洋服がよく似合う。高校生の頃は女子からさぞかし好かれただろう。女子校で女生徒が憧れる、バスケットボール部の先輩といったところだ。  私はまだ張り詰めているが、彼女は余裕があるように見える。肩の力を抜いて、自由を楽しむ余裕。私は彼女を見習って、深呼吸をして気が張った身体を緩めた。  まず私立美術館に行きたいと言って、私は手を引かれた。彼女は綾目と名乗った。ただ呼び捨てにして欲しい、と言われたので、私も綾目に下の名前で呼んで欲しいとお願いする。美術館に行く道すがら、綾目との会話は盛り上がった。綾目は遅い夏休みを取っているということ。私と彼女は同い歳であるということ。住んでいる場所も近いこと。違う点は綾目は結婚はしていないが、気になるひとがいるということ。しかし何より綾目もまたひとり旅であるということが、私を元気づけ安心させた。 「夏実は結婚しているんだね」  綾目は薬指にはめている私の左手に気がついていた。無用なものになりつつある、私の結婚指輪。私は鬱屈とした思いで、笑ってみせた。 「一応ね」 「何か含みがある言い方だなあ」 「よくある話よ。あの建物が美術館じゃない?」  私が指さした方向に、綾目は目線を移した。あからさまに話題を変えてしまったことに後ろめたさがあった。今この瞬間に彼はいないのに。     
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