ラプンツェルの長い髪

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 美術館は有名な日本画作家のもので、私立なので点数は少ないが、多くのひとが見たことがある作品が飾られていた。その有名な絵は意外と小さかったが、名画というものは存在が大きく見えるものかもしれないと思った。  ゆっくりと絵を見るなんて何年ぶりだろうか。私は楽しくて展示場を三周した。綾目も一枚一枚の絵を、近づいたり、遠のいたり、ゆっくりと丁寧に眺めていた。私は綾目の真剣な眼差しを盗み見ると、澄んだ瞳をしているなと思った。  たっぷりと二時間、集中して絵を眺めた。私たちは少し疲れたね、と言って併設されている喫茶店に入った。窓際に面している席に着くと、秋がもっと深まれば紅葉が見ることができたかもしれない。 「美人画で有名な画家だけれど、書簡まで見られるなんて。来てよかった」 「私も楽しかったよ」  綾目は興奮気味に言うと、まるで少年のように見えた。綾目は鑑賞中に押しつけがましく、画家の生涯や作品の来歴を語ったりしなかった。夏実が見たいように見ればいいんだよと言われ、私は感じるままにそうした。以前、弘文は知識をひけらかして、観賞の仕方を私に強要した。絵の見方とか絵の所以を耳元で囁いた。私は最初、そんな彼のことを物知りだと思って感心した。しかし二回目となるとうっとうしく思い、それ以降デートの選択肢から美術館は外した。 「綺麗だね」  窓の外を見ながら、綾目はそう言った。     
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