ラプンツェルの長い髪

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「本当に。もう少ししたら紅葉が見られたのにね」 「違うよ、夏実の髪」  私は反射的に自分の髪を触った。私は自分の黒髪を後で緩く、ひとつの三つ編みにしている。 「まるでラプンツェルみたいだ」  綾目は恥ずかしいのか、私に視線を外したまま言った。惰性で伸ばしていた黒髪なのに。私は褒められて面映ゆく感じる。 「ありがとう」  私もコーヒーカップに視線を落とし、照れを隠しながらも嬉しくて、そう言った。  私と綾目はその午後も観光を楽しんだ。ロープウェイに乗って景色を楽しんだり、温泉街をそぞろ歩きをした。翌日も寺院巡りをして、その後に温泉のはしごをした。夕食を綾目と一緒に味わい、そして再び旅館の湯に浸かる。引き締まった綾目の身体は、私のそれと同じとは思えなかった。 「綾目は運動とかしているの?」 「特にはしてないよ。しいて言えば今の職場が激務だからね」 「私も働きたいな」  私が結婚生活や今後のことを思い出し、ため息をついた。温かい湯で綻んだ声のように響かせるはずだったが、重々しい嘆息になってしまったことを私は後悔した。 「今すぐ、とか夏実が無理する必要はないよ。いまは現実の問題から離れたほうがいい」     
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