ラプンツェルの長い髪

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 私はその綾目の言葉をすぐ理解できなかった。何か言うべきだと思いつつ、私は押し黙ることしかできない。 「困らせるつもりはないんだ。別にどうこうなりたいわけではないし。温泉で溺れているのを助けて、夏実が目を開けてほほ笑んだ瞬間に恋に落ちた。我ながらお手軽だと思ったけれど」 「綾目にそう思われる価値は私にはないよ」 「価値があるかないかは私が決める。夏実が好きだよ」  曇りのない目線を綾目は私に向ける。私は自分から視線を逸らすことができない。綾目は吸い込まれそうな透明な目をしている。そして彼女は苦そうには笑って、湯船から立ち上がった。 「ごめん。少しのぼせたみたいだから、先に上がるね」  私は湯気に消える綾目の姿を追えなかった。驚きと戸惑いが私を襲い、身体を硬直させた。それでも嫌な気分はしない。むしろ嬉しかった。しかし私は綾目の気持ちに応えていいのだろうか、と思った瞬間、自分の左薬指にある指輪を意識せざるをえなかった。それでも私は綾目に対して何もなかったようには振るまえない。     
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