ラプンツェルの長い髪

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 温泉から上がって自分の部屋に戻ると、スマートフォンが鳴っているが、綾目の告白で気持ちが浮ついて、まごついている間に切れた。誰からかかってきているか確認すると、弘文からだった。そしてこの数時間の間に着信が五件以上あった。家を出てから三日。一日で帰ると伝えていたが、彼を困らせたくて元からその気はなかった。彼は私を心配しているのだろうか。それよりいっそ彼が私の不在を喜べばいいのに。思う存分「気分転換」をすればいい。彼はきっと私の実家の電話にもかけているだろう。私は電話をかけ直すべきか思案していると、再び鳴り響いた。  私が反射的に電話を取ると、弘文は憮然とした声で、今どこにいるのか聞いてきた。私は決して言うまいと押し黙る。 「きみが帰ってきたら改めて話がある」  彼は長く口をつぐんだ後にそう言った。私は何も言えないままでいると電話は切れる。彼の言いたいことを想像すると、喉元が絞まる。和解か離婚か。きっと離婚だろうけれども、それでも確かめれば良かった。離婚はしたいけれど、したくない。彼への死臭を放つ執着という感情が私を縛り付ける。相反する気持ちが内臓を食い散らかすように蝕み、苦しく息ができない。  私は綾目の部屋の前に立ち、ドアをノックした。 「どうしたの?」  先ほどの告白できまりが悪いのも相まってか、綾目は私の来訪に驚いていた。いま綾目の部屋に来ることがどんな意味をなすのか、私にもよくわかっていた。綾目の告白を受け入れるということだ。綾目が同性であるということが私には何の抵抗も与えない。私の心に食い入るこの感情を知らせたい。そして窒息状態の網目をかいくぐって、私を救って欲しい。それができるのは綾目だけだ。 「溺れているの。助けて」     
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