ラプンツェルの長い髪

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 弘文との付き合いは愛に満ちていた。私も忙しく仕事をしていたが、それでも私も彼も寸暇を惜しんで会う時間を作った。あまりの忙しさのなかでデートをしたら彼は食事中に眠ってしまい、料理の乗る食器に顔を突っこんだこともあった。彼は頭を掻いて笑って、私も心の底から笑った。そのときは今の状態になるなんて、誰が想像できただろうか。  私は以前から行きたかった場所。それはスーパーマーケットに張り出された広告に映っていた。キャッチコピーはありきたりだったが、写っている女性が温泉で芯まで温まっているように見えるポスターだった。それを見て、私は我が身を振り返った。私はいつからこんなに冷たく乾いた女になったのか。写真の女性のように緩みたい、と思ってため息をついたのを、昨日の夜に思い出したからだ。弘文が出かけてから、PCを立ち上げて、検索で一番上にあった旅館に電話をした。今日これからか宿泊できるか問い合わせた。客室に空きがあるとわかると、すぐに家を出て新幹線に乗った。  新幹線に乗るのは久しぶりだった。あっという間に過ぎ去っていく景色を見ながら、お酒のおかげか、少し心が楽になったのを感じる。今は朝の十時だ。こんな時間からビールを飲むことなんて、したことがなかった。お酒が私の身体に染み入る。今の私を甘やかすのは、弘文でも、友人でもなく、ひとりだけでゆっくり過ごす時間かもしれないと思った。     
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