第四章 旅立ち

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 何度も何度も読み返した手紙を、折り目に沿って丁寧に畳み、封筒にしまう。もう涙は出ないけれど、いつ読んでもパパの深い愛情を感じることができて、心がじんわりと温かくなる。  ママがパパと再婚という形を選んだことは、さとみもこの手紙を初めて読んだ時に知ったのです。パパがママと離婚した後で、ママが自分にとって特別な存在であったことに気づいたように、ママもパパを喪うことがわかったことで、パパが一番大切な人だったと気づいたのです。だから、当時付き合っていた男性とも別れ、パパと再婚という形をとったのでした。そんなパパとママが素敵だと思いました。  パパはさとみに手紙をくれた同じ日に、ママにも手紙を送りました。どんなことが書かれていたのかは、ママに聞いても教えてくれないのでわかりません。でも、封筒の中には離婚届の用紙も入っていて、いつでも出せるようにパパの署名、捺印がされていたようです。でもママは未だに出していません。  さとみは自分が大人になり、結婚することになった今だからこそ思うのです。ママにも新たな幸せを見つけてほしいと。もういいよね、パパ。 「さとみー」  結婚式の招待状を書くために来ている横山晃が、さとみを呼ぶ声が隣室から聞こえる。たぶん、自分が書く分を書き終えたのだろう。 「はーい。今行くから待ってて」  もう一度パパに会いたくて、そっと目を瞑る。そこには飛びっきりの笑顔のパパがいた。
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