ゆんとひな

12/46
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
 茶色のポットとコンロがいくつもある。  後ろのかべは全部たなになっていて、赤いラベルのブリキ缶がぎっしりならんでいた。  白い手はてきぱき動いた。  ポットに水を入れて、こんろにのせた。  二人の目の前に、おとうさんがビールを飲むときみたいなジョッキを二つ置く。  缶からピンセットで黒いかたまりを出して、それぞれのジョッキに一つずつころんと落とした。  草をぼさぼさに丸めて、ひからびさせたような、おかしなかたまりだ。  ポットがしゅんしゅんいいだした。  「少し下がって、おじょうさまがた。ヤケドをせぬよう」  二人のおじょうさまがたは、丸いすにすわりなおした。  ゆんはカウンターにつかまって、できるだけせなかをうしろにそらした。  ひなもまねをする。  ファンはポットを取り上げて、ジョッキにお湯を注ぎだした。  だんだんうでを大きく動かして、ポットを上げたり下げたりした。  細い糸みたいに、お湯がのびたりちぢんだりする。  まるで、とうめいであばれんぼうのヘビみたいだ。  でも、いってきもこぼれなかった。  ジョッキの中で、黒いかたまりがくるんと舞い上がり、むずむず動き出した。  「わあ」  ひなは思わず声を上げてしまった。  かたまりの中から、黄色いものがぽこっ、ぽこっ、ぽこっと三つ飛び出した。  お湯の中で広がり、みるみるきれいなお花になった。  まわりは、すっとするいいにおいでいっぱいになる。  ファンは、小さな銀色の砂時計を横に置いた。  「キクの花のお茶です。砂が落ちきったら飲みごろです。どうぞごゆっくり」  奥の部屋に引っこんでしまった。    まどからの光の中で、ジョッキから上る湯気がゆらゆらゆれた。  キクのお茶はうす緑色で、やさしい味がした。  お茶葉がくちびるにくっつくので、ちょっと飲みにくい。  「ねえねえそいで、ペドロはどうだったの?」  ひなは待ちきれなくって、とうとう聞いてしまった。  「ああん、カポエイラ村のペドロね」  ゆんは黄色のはなびらを口のはしにくっつけている。  ぺろんとなめとってから、話しはじめた。     ※※
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!