ゆんとひな

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 たった一人で校庭を横断していると、あたりはまっ白な砂ばくみたいに思えてくる。  「あたしは、こどくに旅する探検隊だ」  ひなはひとりごとをいった。  通学路もがらんとしていた。小学生はだれもいない。  よく晴れた日だった。  早びけの子は、明るい五月の真昼をひとりじめできる。  鳥たちは楽しそうに歌い、木の葉っぱはつやつやきれいな緑色だった。  ちょっとおトクな気持ちと、ぽかんとした風船みたいな気持ちの両方をかかえて、ひなは歩いていった。  かわいたアスファルトを見ながら、砂ばくごっこを続ける。  おお、なんたるしったい、おそるべきミステーク!   水とうを落としてしまった。そのうえ、らくだは逃げてしまった。  しゃく熱の太陽は、ようしゃなく探検隊の首すじとランドセルをやいた。  このまま行けば、ぜったいのたれ死に。しわしわのミイラになっちゃうだろう。  はてさて、大変なことになった。  ……なあんちゃって。  ひなは首を上げて、にっこりした。  ここにオアシスがあるのは、せんこくしょうちのすけ、だったからだ。    ひなのオアシスは、やしの木のしげる湖……じゃなくて、灰色の建物だ。  ちょっと見ただけだとつぶれかけの会社みたいだけど、ここは図書館なのだ。  1階の水のみでたっぷり水を飲んでから、2階の児童室に上がる。  カウンターのおじさんが顔を上げた。  「おっす、ひな」  右手を高く上げる。  「おっす」  ひなはちょんと飛び上がって、ぱっちん、とおじさんの手をたたいた。  お決まりのあいさつだ。  「キサラギさんのおすすめ、すんごく、おもしろかった」  ひなは手さげから、借りていた「長くつ下のピッピ」を取り出した。  カウンターにのっける。  「でしょ?」  ぼさぼさ頭のキサラギさんは、ぶきみなウインクをしながら、返却のスキャンをする。  「リンドグレーンにはずれなし。古来、児童室に伝わるありがたーいことわざだ」  ひなはカウンターにせなかをくっつけてもたれた。  「ピッピみたいな子が友だちだったらいいよねー」  「まったくそのとおり。いいよなあ」  「あたし、ベランダで馬飼いたい」  「おれは金貨がぎっしりつまったスーツケースでいいや」  ひなとキサラギさんは、しばらくおしゃべりする。  この時間、二階にはほかの人がほとんど来ないから、おしゃべりしても注意されないのだ。
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