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店員さんにまくし立てられると、エデは顔を上げた。泣き真似だったらしい。はい、注目―と手をひらひらとさせると、エデの手の上にはパンダの手のひらサイズのぬいぐるみが現れた。
ポケットからハンカチを取り出し、パンダを覆い隠すと、むにゃむにゃむにゃ……と魔法をかけるポーズをする。ドラムロールがどこからか鳴り響き、じゃん!と音がすると、ハンカチの中のパンダは、白熊になっていた。
「わー、すごいです」
店員さんはぱちぱちと拍手をするが、私は白い目でエデを見ている。彼女がやったのは、マジックではない。魔法だ。
拍手をする店員さんに、エデがずいっと白熊のぬいぐるみを差し出して、つんつんと人差し指でつつく。
「白……? ああ、白く染めたいんですね」
白熊を受け取った店員さんは、エデのジェスチャーをようやく理解したようだ。
「何を染めるんですか?」
店員さんが聞くと、エデは両方の手で、自分が今着ているピンクのコートを摘んだ。
「ああ、そろそろ“白の祭”ですもんね」
店員さんは何かを考えているようだったが、続いて常識的なことを言った。
「染めるより、新しいのを買ったほうがいいと思いますよ」
ガーン!と音がして、エデが顎をのけぞらせてその場に倒れこんだ。いちいちオーバーな奴だな。いや、今の音、いつもの効果音じゃなくて、ガラス戸に頭をぶつけた音かな?
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