1.正月

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1.正月

身の回りで起こる出来事をネガティブに受け取ってしまう人もいれば、ポジティブに受け取ろうとする人がいる。 この物語に登場する九十九(つくも)なる人物は自分のラッキーカラーを信じポジティブに日々を暮らす、そのような性格の持ち主である。 新しい年を迎えて新宿の百貨店でスーツを新調した九十九(つくも)は店員から福引抽選券をもらい受けた。会社員として働き始めて10年が経ち、少しは見栄えの良い腕時計や革靴、それにスーツを身に着ける余裕も出てきた彼である。 店員から案内された福引会場にたどり着くと、まだお昼前ということもあり列はさほど長くはない。福引の抽選機も最近ではデジタル化し、タブレット画面の中の絵柄を揃えるものが多くなってきているが、どうやらここの福引会場では昔ながらの自分の手で回す木製の抽選機が使われている。 ガラガラと会場内に響きわたる音が賞品獲得という結果だけを追い求めるだけの作業に偏りがちな今どきの福引抽選に比べ九十九(つくも)の遊び心を弾ませていた。 じっくりと福引抽選の過程を味わうように彼はゆっくりと持ち手を右に回す。一周も回さないうちにコトリと白い玉が落ちた。待ってましたとばかり抽選会場のスタッフが少しの笑顔と少しの申しわけなさそうな表情をしつらえてポケットティッシュを九十九(つくも)に手渡した。 彼は子どもの頃から慣れ親しんだ行事を味わえただけで満足気にポケットティッシュを受け取り、肩に掛けていた鞄の中にしまいこんだ。 ハズレを意味するポケットティッシュをともすれば先ほど買ったスーツの大きな紙袋に投げ入れてもなんら不思議ではない。ただ九十九(つくも)はいかにも大事そうに鞄にしまい込んだのは白い玉がもたらした賞品だったからである。 九十九(つくも)のラッキーカラーは白である。 88才、90才、99才の長寿を米寿、卒寿、白寿として、それぞれ祝われてきた。百という字の一画目の一を取り除くと白という字になり99才を白寿とされている。こんなことを九十九(つくも)が知ったのは小学生の頃である。その頃から彼は自分のラッキーカラーは白と決めて、ことあるごとに白という色をどこかで優先させてきた。
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