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そして今。
カナさんはティンクの衣装のまま俺の腕の中。
カタカタ震えてるのは俺に怒られると思っているのか、それとも今頃になって怖くなったのか。
「直人。ごめん」
俺は何も言わない。ただひたすら抱きしめる。
他のパフォーマーの人たちも何も言わずに事の成り行きを見守ってる。
いきなり楽屋のドアを開けて「花菜!」って叫んだときから、多分俺が恋人だってのは分かったと思うんだ。
だけどその時のカナさんがあんまりにも怯えた様子を見せたから、だいぶ警戒されてる気がする。
もし俺が怒鳴ったりカナに手をあげたりしたら飛んでくるつもりだよ。
……するわけないじゃん。
こんな可愛い妖精に。
「すっげー綺麗だったよ。花菜。」
花菜の体が腕の中で跳ねる。
そのまま俺を見上げて口をパクパク。
うーん、それは止めて欲しいかな。人前でキスしたくなるから。
「花菜のティンク、最高だった。この後も公演あるんだってね。俺はもう帰らないといけないけど……」
これくらいはいいよな。コージさんだって褒めてやれって言ったし。
「気持ちはここに置いていくから、しっかり頑張れよ、花菜。」
そう言ってつむじにキスを一つ。
これは、お約束。
言いたいことも聞きたいこともたくさんあるけど、ここは花菜の頑張りに素直に称賛。
だから。
どうか無事に。
願いを込めてキスをもう一つ。
今度は白粉ごしでもわかる、赤いほっぺに。
ホントのおしまい。
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