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傘を差していない彼の髪から、滴が落ちた。水も滴る、とはよく言ったもの。改めて目の前の好青年に固唾を呑んでしまったわたしは何か話さなきゃ、と必死に思考を巡らせて、口を開いた。
「傘、返さないと」
肩を竦めた彼は、傘の柄を握るわたしの手に自分の手を添えた。
指の長い、大きな手はとても綺麗でドキッとした。でもその優しい温もりの感触は、あの日、わたしの頬を伝った涙を拭ってくれたあの指の感触と重なった。鼓動が早まるのを感じながらも彼に向けた視線が外せなかった。
彼は、フワッと笑った。
「傘は、もう少し持っていてくれ。俺とアンタとの間に縁があれば恐らく……いや、絶対に会える」
彼の言葉がわたしの中で消化不良を起こす。
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