ビアホール〝マイスター〟1

2/8
前へ
/541ページ
次へ
 夜のお仕事、と言ってもわたしのしている夜のお仕事は、世間一般のイメージとして定着している〝オネエサン〟のお仕事ではない。職場は〝飲食業〟形態のお店である事には変わらないけれど。  そのお店はANAホテル近くの、賑やかな通りから少しだけ離れた石造りの建物の中にあった。  昔は倉庫として使われていたという趣ある建物を改装した、ドイツビールを主に取り扱うビアホールで、ドイツに長く住んでいたというオジサンが脱サラして一念発起して開店したお店だった。今年でもうかれこれ十五年目くらいになるという。  天井の高い、広い店内には、カウンター席、テーブル席が並び、店の中央には、小さなステージがあって、グランドピアノが置かれていた。  わたしはこの店に、ホールピアニストとして長く雇ってもらっていた。
/541ページ

最初のコメントを投稿しよう!

246人が本棚に入れています
本棚に追加