246人が本棚に入れています
本棚に追加
『とてつもない執念を感じたよ』
十年も前の話しだ。わたしは苦笑いを返すしかない。
『でも、すごい説得力を持っていたんだよね、君のピアノは』
そう。弾けば、弾かせてさえもらえば、聴いてもらえれば、雇ってもらえる自信があった。だからあの時言ったのだ。
『じゃあ、聴いてください、わたしのピアノ! 聴いてもらえたら、絶対に雇う気になります!』
若かったから出来た。じゃあ、今のわたしは――?
とある事情の為に、大々的に自分の名前を売り込めなかったわたしには、大きなチャンスどころか、小さな仕事だって舞い込んではこなかった。
気づけばもう三十代。チャンスなんて、虫眼鏡で探さなければ見つからない。
最初のコメントを投稿しよう!