ビアホール〝マイスター〟1

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『とてつもない執念を感じたよ』  十年も前の話しだ。わたしは苦笑いを返すしかない。 『でも、すごい説得力を持っていたんだよね、君のピアノは』  そう。弾けば、弾かせてさえもらえば、聴いてもらえれば、雇ってもらえる自信があった。だからあの時言ったのだ。 『じゃあ、聴いてください、わたしのピアノ! 聴いてもらえたら、絶対に雇う気になります!』  若かったから出来た。じゃあ、今のわたしは――?  とある事情の為に、大々的に自分の名前を売り込めなかったわたしには、大きなチャンスどころか、小さな仕事だって舞い込んではこなかった。  気づけばもう三十代。チャンスなんて、虫眼鏡で探さなければ見つからない。
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