春になったら逢いに行きます【完結】

ビアホール〝マイスター〟2

　石造りのホールは、音響がいい。お客さんが少なければ反響する音が澄んで美しい音を響かせてくれる。

　静かな夜を演出するピアノで、ゆっくりと一日の疲れを癒すひと時を。それが、今のわたしのピアノがもたらす効果であってくれたらいい。

　目指すところは、いつだって揺れている。

　静かな夜のお客さんは、ピアノの演奏も楽しんでくれる。弾き終わってしっかりとした拍手が送られる夜は、ちょっとした快感を味わえる。

　ステージを下りてカーデガンを肩に羽織って店長サンがいるカウンターに行くと、店長サンはニコニコ顔で「お疲れ」と言いながら細いグラスに注がれた淡色のビールを出してくれた。

　ヴァイスビアという、酵母の効いたちょっとフルーティーなビールを、わたしはグイッと呑む。演奏後の興奮に心地好く浸みて、美味しい。