1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
聖なる夜の契約
目を覚ますと、枕元に見知らぬ男が立っていた。
真っ白なヒゲをたくわえた初老の男。赤い服に三角帽、肩には白い袋をかついでいる。
サンタだ。
「病院に行くか、行かないか。それが問題だ」
男はそう言うとため息をついた。そしてかついでいた袋を下ろし、こたつの前に座った。
私は枕元に置いてあった眼鏡をかけた。時計を見ると明け方の四時だった。
「どちらさまでしょうか?」
私が訊くと、男は疲れた目をこちらに向けた。その瞳には、肉体労働者の哀しみのようなものが色濃く出ていた。
「おお、すまん。私は怪しいものではない」
男はそう言うと、タバコを取り出して火をつけた。
「すいません。外で吸ってもらえますか?」
「おお、すまん、すまん」
こたつの上に置きっぱなしだった、ほろ酔い白ぶどうの空き缶で、男はタバコの火を消した。
そして吸い殻を缶の中に捨てた。
「昔は駅のホームでタバコを吸っても良かったのにな。今じゃどこもかしこも禁煙だ。時代も変わったもんだ」
「はあ、そうですか」
「小泉だな」
「小泉?」
「ああ」
「元首相ですか? 改革で有名な」
そうだ、と言ってサンタの格好をした初老の男はうなずいた。
最初のコメントを投稿しよう!