聖なる夜の契約

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「小泉が変えちまったんだよ。改革だ何だと言って、あいつが世の中を全部おかしくしちまったんだ」 男は目をつぶって首を振った。 そして再びため息を吐いた。それは地獄の底から吹いてきた風のような深いため息だった。 「それで、あなたは一体どちら様なんでしょうか?」 「ん、そこから? そこから説明が必要?」 まいったな、と言って男は苦笑いをした。 「この格好だよ、わかるでしょ? サンタだよ。サンタクロース」 男は「いつやるの、今でしょ!」みたいな感じで言い放った。 「とりあえず、コーヒーでもくれないかな」 「え?」 「だめなのかい?」 私はしぶしぶ立ち上がりキッチンへ向かった。 そしてポットでお湯をわかした。 居間をちらりと見やると、サンタはしきりに右肩を気にしながら顔をしかめていた。 どうやら肩を痛めているようだ。病院はちゃんと労災で受けることにしよう、とか何とかつぶやいている。 「ブラックですか?」 「ん、何がだ?」 「コーヒーです」 「コーヒーか。ブラックでかまわんよ」 サンタは笑った。 「てっきりうちの会社のことを言っているのかと思ってしまったよ」 私はコーヒーを()れたマグカップをこたつの上に置いた。 「どうぞ」 「すまないね」 「いえ」 ずずず、と音を立てて彼はコーヒーをすすった。 「うまい。豆はグァテマラかい?」     
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