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「そんな少女をみて、天使はとても悲しくなって涙を流した。そして、少女に天に昇る前に70日あたたかいぬくもりを感じさせてあげられる時間を与えることにした。それから白い雪の森は悲しみを癒す森と言われるようになった」
白髪のマスターはカップに手を伸ばし、ホットミルクを一口飲んだ。
「ひどい話だと思ってしまいます。いつ聞いても」
瑠璃は窓の外をふわふわと舞い続けている白い雪を横目で見つめている。
「誰もが大切にされ、誰かに愛し愛され、あたたかさやぬくもり、幸せを感じて生きていけたなら、とても素晴らしいことです。しかしながら、我々人間という生き物はまだまだ未熟なのでしょう」
「ええ」
飲み終わったカップを丁寧に洗いながら、空になった瓶を片付けている瑠璃に白髪のマスターが声をかける。
「瑠璃さん、それが終わったら今日はお帰りなさい。雪の降り方が強くなってきましたから」
温かい店から扉を一歩出ると、柔らかい雪に膝あたりまで埋まってしまう。
瑠璃はフードをかぶり直し、扉を開けてくれている白髪の店のマスターにもう一度お礼を言って歩き始めた。
瑠璃には家族がいない。
瑠璃が小さい頃、病気で親をなくしたのだった。
それから、瑠璃は施設で育ち、大人になってからは、白髪のマスターがいるあの店で働きながら一人で暮らしている。
空から降り続いている雪のせいで、すっかり真っ白になっている道を歩きながら、道から少し外れた向こうどこまでも続く白い雪の森が何だか気になってちらちらと目線を向けた。
そこにはいつもと変わらない白い雪の森が広がっている。
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