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「天使?」
驚きながら瑠璃は口をぱくぱくさせる。
「私の姿が見えるようですね」
天から降り注ぐ優しい歌声のような声がする。
「はい」
小さく瑠璃が頷く。
「私の姿が見える、優しいあなたにお願いがあります」
そう言って天使は腕に抱えたくすんだオレンジ色のフードを少しだけ優しく外した。
瑠璃は小さく息を飲む。
天使に抱きかかえられていたのは、くるくるした茶色い髪をした、小さな少女だった。
「ええ、その通りです。小さな人間の少女です」
天使は優しく少女のフードを元に戻した。
「森の入り口に捨て去られたのです。そして、この子は今までに人のぬくもりや温かさを感じたことがないようでした。私の力を使ってもこの子の命はあと70日です。ですからその最期の時間、小さな少女に人間として生まれてきたことの幸せを味あわせて欲しいのです」
天使はじっと瑠璃をみつめる。
「私、そんな大役できるかわかりません。私もずっと一人で、誰かと暮らしたことも、もちろん子供を育てたこともないんです」
不安な顔をしている瑠璃に天使は優しく微笑む。
「あなたはとても優しくて、今もこの子のことを心配してくれていますね」
瑠璃は小さく頷く。
「ただ一緒にいてあげてください。それだけで十分なのです」
そう言うと、天使はそっと瑠璃の腕に小さな少女をそっと預けた。
「朝になったら目覚めます。70日後、お迎えにきます。瑠璃さん、ありがとう」
「え?」
瑠璃は自分の名前を呼ばれたことに驚いて天使の方を見上げたが、そこにはもう天使の姿は見当たらなかった。
ただ、腕には温かい少女のぬくもりがあった。
瑠璃は少しの間、きょろきょろと辺りを見渡していたが、真っ白な行きの寒さをふと思い出し、小さな少女を抱きかかえて、急いで部屋の中へ戻った。
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